イズム 〜先輩風編〜

エッセイ

30代男性として正しい先輩風の吹かせ方を模索している。人生や仕事を教えることだけが先輩の役割ではないのは重々承知のつもりだ。頭ではわかっているからこそ実践が難しいのである。

これは数年前のその奮闘記録。

後輩夫婦と居酒屋に行った。お酒に好みもこだわりもないが、禁止されるとより求めたくなるのは人間の性か。

オリンピックより飲み会を楽しみに指折り数え、図らずも緊急事態宣言の合間を縫ったタイミングに行くことができた。

このご時世下、法の網をくぐるように暖簾をくぐる。まるでアングラな違法行為に手を染めた気分だ。久しぶりのお酒の席に緊張感と懐かしさと喜びを噛み締めながら着座した。土曜の昼下がりの大衆居酒屋。大人最高。

共通の話題は盛り上がる。所属の話よりパーソナルな話。好きに勝るものはなく、そこに年齢は関係ない。自分と同じならそれは共有する喜びに、自分と違えばそれは知る喜びに。

アルコールは程よく、そしてあらゆる垣根を曖昧にしてくれる。好きなスポーツ、音楽、漫画、ラジオ、お笑い… アクリル板越しではあったが、ネットを超えた身体性を伴う飲み会はとても楽しかった。

貴重な時間であるという認識がより多幸感を生み出した。大人の特権を肌で感じ、それを満喫した。

さて、仕事、年齢、大学、etc… どこを切り取っても私は先輩で、ゲストではなくホストである事が決定的であった。

いついかなる時も割とフラットでニュートラルなポジションをとりがちな私だが、それは持ち味というより、よくよく考えるとシンプルに先輩力も後輩力も足りていないだけであった。

先輩検定3級の私と後輩検定1級の後輩夫婦。

私はお酒を飲んでも大して顔に出ないし、そこそこ自制が効く方だ。

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数少ない失態だからこそ、鮮明に覚えている事もある。

大学時代、唯一記憶を無くした時に、自分は手洗い場に突っ込みびしょびしょに濡れて介抱されているのに、その友人に対して「~が寒くなければ俺はそれでいいよ」と言ったらしく、私はそれから自分自身の中にある性善説を信じている。

また、数年前に、帰省する前日に飲み過ぎて、二日酔いで運転できず、妻に終始運転してもらった。出発直後に、家の前の下り坂で吐いた。そして隣のチャイルドシートに座る息子がおもちゃを落として、しょうがねぇなと屈んだらもう一回吐いた(しょうがねぇのはお前だ)。

どうでもいい事を芋づる式に思い出した…

これはまた別の機会に書き記したい。

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自分でも酔っ払っている自覚が来るのが遅い。

お酒にこだわりがない分、人と話してると気づけばそこそこ飲んでいる(ことを後で思い出す)。これを喋り上戸と呼ぶのだろうか。それならまだしも【自分語り上戸(先輩検定3級)】となると文字面からキツさが伝わる。

“相対的社会のゲスト”である2人を”相対的社会のホスト”である私は、オリンピックよろしく、お、も、て、な、し、精神で会話を引き出す予定だった。

(なんなら、「自分にない考えを聞くのが好きですっ」みたいなことをこの前自分で書いてた気がする。)

終わってみれば、お察しの通り、自分ばっかり喋ってた気がする。

細かいハイライトを振り返ると、聴取番組がTBS系列であると聞いた時にくらってしまった。

「この子ちゃんと深夜ラジオ聴いてる…」

そこで「ラジオ聴きながらTwitterで共感した人いるか探すのあるあるだよね~」とか言ってる場合じゃなかった。

何がどうして好きか広げるべきであった。

久しぶりのジョッキで乾杯に酔って、会話の中間点を見誤り、そこからはお得意の自分語りをしていた気がする。

後輩捕まえて、先輩の自分語りなんて振り返るだけで痛々しい…何より後輩妻は初対面だった。世の30代男性がみんなこうではないと改めて説明させて欲しいくらいだ。

帰り道にふと、「話すのはあんまり得意じゃないから書くことが好きかなー」とかのたまってたが、私が1番喋ってたことを思い返して顔が赤くなった。

32歳先輩、話すの大好きじゃん!

もっと話を引き出すホストであれよ。

何を、後輩力のある後輩夫婦を前に気持ちよくなっちゃってんの!?ずっと語ってたよね!?

後輩夫婦がそれから1時間かけて帰る中、たったの2駅で最寄り駅に着くどうしようもない物理的距離感が、より先輩風を強くした。

スマホの画面を見ると、強風注意と表示されていた。

酔いが冷めたら色々と不甲斐なさを思い出してしまうと、私は足早に帰った。次の緊急事態宣言が明けたら先輩検定2級をとってリベンジしたいと思う。

当時のSNS投稿から (2021/7/12)

続く!!

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