Blues Drive Monster / Radio Monster

エッセイ

ラジオがやりたい。

ここ数年ずっと思っている。

”ラジオリスナー”じゃなくて、”ラジオパーソナリティー”の方を。

ほんの少しだけ自由に使えるお金と時間を手に入れたとして、30代男性として新しく始める”大人の趣味”を並べると、「あの時計が欲しい」とか「ギターが習いたい」とか「DIYを始めたい」あたりが妥当だろうか。

昔から身格好は機能性が一番だと思っているので腕時計なんて一つあればいいし、音楽的素養は皆無なので、音楽は奏でるものではなく聴いて楽しめたらそれでいい。DIYは特技欄に書きたいくらいに興味はあるが、作ったもので溢れていくことを思うと、リビングの端になるべく目立たないように(妻の意向に従って)作った機能性重視の棚や、子供の成長に合わせてアジャストした(リメイクと呼ぶには雑な造りの)椅子の足台くらいでまぁまぁ満足している。そんなことよりも子供が壊した家具や壁を直すことで忙しい。これは日曜大工という名の仕事であって、趣味ではない。

物を所有することよりも、自らの体験にお金や時間を使いたい。かといって突拍子も無いことがやりたいわけではない。子供が産まれてからは、消費者として自分自身のためにどこかに旅行に行くことも途端に興味がなくなった。そういう意味では行きたいところはあんまりないのかもしれない。

そんな最近の自分が今一番やりたいこと。

それがラジオ。

別に話すのが好きというわけではないし、むしろ苦手だと思っている。今でも。
書く方が饒舌で、メールやLINEの方がおしゃべりだと自分でも分かっている。
聞く方が好きなのは、人に対する興味がある反面、自分自身に飽き飽きしているからだ。
こんなつまらない人間の身の上話なんて誰が聞くんだよと思っている。

でも、そんな自分でもやってみたいと思っている。

別に、ラジオに深いルーツはない。悩める夜も寝てしまえるほどに健康優良児だし、テレビを見て育ったからか、今でも音声メディアより映像メディアの方が馴染みやすい。

インターネットとの相性が良いからといって、言うほど普及している気はしない。青春時代を伴走したテレビや、人生を変えた音楽はあれど、ラジオにそれだけのパワーがあるのだろうか。

いったいラジオの何に惹かれているのだろうか。

ラジオを聞く。

テレビと違って、みんなと教室で話すために聞いていない。
音楽と違って、生活を彩りたくて聞いているわけでもない。

ラジオを聞く。

流行りもなければ、インパクトもない。
それどころか、無くても困りはしない。

それでもラジオを聞くのはなぜか。
それでも時代を跨げるのはなぜか。

翌日の話題にあがることも、人生を変えることもない。
しかし、一生忘れない一回や、一生忘れない一通がある。

ラジオは生活に溶け込んでいるのかもしれない。
ラジオは孤独を埋めてくれるのかもしれない。

やっぱり、やってみたい。

十分に突拍子も無いことかもしれないけれど、私の声を遠くの誰かに届けてみたい。

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今やインターネット配信によって誰でも配信者になれる時代だ。

どこの誰かもわからない奴の配信なんて誰が見るんだよ。なんて思ったこともあったが、よくよく考えたら、テレビだってラジオだってどこの誰かもわからない奴ばっかりだった。

”誰でも配信者になれる”の、”誰でも”に自分も含まれていることに気付く。

気付いてしまったからにはやってみないと気が済まない性分だ。何でも形から入りたいタイプなので、すぐさま調べて必要な機材を買い揃えた。もちろん高価な機材なんて無くたって、スマートフォンひとつあればできることも知っている。でも卓上マイクとカフの付いたミキサーはどうしても欲しかった。

そして、いつかラジオをやるなら一人じゃなくて二人でやってみたかった。

進行台本を書き上げて”おともだち”に送りつける。

BGMやジングルに合いそうなフリー音源を探す。

フリートークを用意する。

レンタル会議室で機材を繋げて、見よう見まねに録音してみる。

タイトルコール。

オープニング。

フリートーク。

エンディング。

もちろん、全てが初めてで、全てが上手くいかなかった。

機材の設定、話の構成、声量、BGM。

だけど、それが楽しかった。

失敗しても楽しい。

はじめる理由として充分で、やめない理由としても充分だった。

誰も見てないからとひっそりと始める予定だったが、あまりに音がひどくてスタートラインにすら辿り着けなかった。

仕事が終わると、夜な夜な機材の設定を調べたりいじったりしている。

もうすぐ自分達だけの2回目の収録ができるだろう。まだ#0だ。

しかし、#1が撮れたとして、本当に誰かに届くのだろうか。

誰も待っていない世界に話しかける事実。

それを見て見ぬふりをしながら、いつものように話せるだろうか。

それでも、きっと楽しいのだろう。

最初は紛い物だとしても、いつかは誰かの本物に。

上手くいったら今度こそ、より遠くへ向けて。

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『どうも、ラジオモンスターです』

”ラジオから抜け出してきたエレクトリックな怪物”はあんただったのか。

退屈も憂鬱も時代も吹き飛ばすそのパワーはギャラクシー級だ。

モンスターが踏みならしたこの空き地で遊ぼう。まだ誰もいないうちに。

さて、集まるだろうか。

どうだろう、”あの16万人”のうち、ひとりくらいは楽しんでくれるかもしれない。

”お守り”なら大事に持っている。

合う人に会うために、電波を飛ばす。

それが今の楽しみ。

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